ユダヤ30〜資本主義化、近代化、西洋化とユダヤ的価値観の浸透

●資本主義化、近代化、西洋化とユダヤ的価値観の浸透

 ヨーロッパ文明では、世界の諸文明に先がけて近代化が開始された。近代化とは、マックス・ウェーバーによれば、「生活全般における合理化の進展」である。合理化とは、合理性が増大することである。合理性とは、ウェーバーによると、恣意、衝動、呪術、神秘主義、伝統、特殊関係などの「非合理的なもの」による判断や、これにもとづく慣習を排して、効率的で、かつ計算可能なルールや生活慣行を重視する傾向である。したがって、合理化とは、こうした非合理的なものが、生活の全般にわたって、しだいに合理的な思考方法や生活慣行に取って代わられていくことである。そして、一般に理性を重んじ、生活のあらゆる面で合理性を貫こうとする態度を、合理主義という。

 ウェーバーは、合理化こそは「西洋の生活方式の根本性格」であり、「運命」そのものであり、「西洋的なエートス」であるとする。「エートス」とは、「生活態度、生活信条または道徳的性格」を意味する。ウェーバーは、さらに「西欧世界にはじめて出現したこの歴史的趨勢は近代社会の本質を形作るばかりではなく,今や人類全体の共通の運命となる」と言う。合理化こそ、近代以降の地球に広がっている人間の思考・行動の起動力であると、ウェーバーは見たわけである。それゆえ、ウェーバーによれば、近代化とは、合理化の進展なのである。文明学的に言い換えると、近代化とは、ある文明の文化要素の全般にわたって合理化が進むことである。

 世界で初めてヨーロッパで始まった近代化は、文化的・社会的・政治的・経済的の4つの領域で、それぞれ進展した。まず14世紀から16世紀にかけてルネサンスが起こり、文化的領域における近代化の開始となった。私は、ルネサンスがある程度進んだ15世紀から近代化が始まったという見方をしている。ルネサンスに続いて、16世紀には宗教改革、17世紀には科学革命が起こり、文化的近代化が進んだ。さらに、17〜18世紀には市民革命、18世紀には産業革命等が起こり、社会的・政治的・経済的な近代化が進行した。この進行とともに、西欧の近代化は、他の文明にも大きな影響を与えるものとなり、人類史における「近代化革命」をもたらした。

 「近代化革命」によって、文化的には宗教・思想・科学等における合理主義の形成、社会的には共同体の解体とそれによる近代的な核家族、機能集団である組織や市場の成立、近代都市の形成、政治的には近代主権国家の成立、近代官僚制と近代民主主義の形成、経済的には近代資本主義・産業主義の形成等が進展した。

 西欧における近代化は、15世紀末からは他文明の支配と、それによる収奪の上に進んだ。17世紀の科学革命による諸発見は、18世紀の産業革命を通じて、資本主義的な産業経営に応用されるようになった。17世紀前半に形成された近代主権国家が、同世紀後半以降の市民革命を経て国民国家となり、資本主義世界経済の担い手となった。資本と国家、富と力の一体化が進み、物質科学とそれに基づく技術が生産、戦争、管理等に活用された。資本と国家と科学という三要素の結合が、近代西洋文明にかつてない強大な力を与えたのである。

 かくして人類史上、最も強力な文明が欧米において確立した。この近代西洋文明が、現代世界を覆うようになっている。

 詳しくは、拙稿「“心の近代化”と新しい精神文化の興隆〜ウェーバーユング・トランスパーソナルの先へ」に書いた。

http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09b.htm

 私はこの資本主義化、近代化、西洋化は、同時にユダヤ的な価値観の浸透・普及の過程でもあると考えている。というのは、近代西洋文明の発達とその世界的広がりは、ユダヤ人の存在なくして語ることができないからである。彼らは、西欧において、ユダヤ教プロテスタンティズムへの浸透を通じて宗教の合理化に影響を与え、また商人・貿易商・銀行家・財務官等の職業を通じて経済の合理化を進めた。また、白人キリスト教徒ともに有色人種を支配・搾取し、北米・中南米・アジア等の各地域に活動を広げて、資本主義を世界に拡大し、それによって近代西洋文明を非西洋文明に広げた。その過程は、ユダヤ的価値観のキリスト教諸文明及び非キリスト教諸文明への浸透・普及の過程だった。

 ユダヤ的価値観とは、物質中心・金銭中心、現世志向、自己中心の考え方であり、対立・闘争の論理、自然を物質化・手段化し、自然の征服・支配を行う思想である。多くの場合、こうした思想は近代西洋の思想と考えられている。確かにこの思想の特徴は近代西洋思想の特徴とほぼ一致する。それは、近代西洋思想がユダヤキリスト教の文化を土壌として発達したからである。そして、私は近代西洋思想の核心に、ユダヤ的価値観が存在することを指摘するものである。近代西洋思想には、他にギリシャ=ローマ文明、ゲルマン民族の文化から受け継いだ要素もある。また、キリスト教にはユダヤ教とは異なる思想がある。だが、それらすべての中でユダヤ文化、特にユダヤ的価値観が近代西洋思想に最も決定的な特徴を与えていると考える。

 次に上記の資本主義化、近代化、西洋化の過程を歴史的展開に沿って述べていきたい。

●近代世界システムの形成・発展とユダヤ人の役割

 ユダヤ人が世界人類に多大な影響を与えるようになったのは、近代以降のことである。近代以降の世界を把握しようとする時、私はアメリカの社会学者イマヌエル・ウォーラーステインの「近代世界システム」という概念が有効だと考えている。まずそのことを書く。

 ウォーラーステインは、人類の歴史の最も規定的な単位として、史的システムという概念を用いる。史的システムは、三つに分類される。第一は、規模のきわめて小さいシステムで、「ミニシステム」と呼ぶ。これは経済的、政治的、文化的ともに一元的な史的システムである。第二は、経済的、政治的には一元的だが、文化的には多元的なシステムであり、「世界帝国」(world-empire)と呼ぶ。第三は、経済的にのみ一元的で、政治的、文化的には多元的なシステムであり、これを「世界経済」(world-economy)と呼ぶ。

 ウォーラーステインは、世界帝国と世界経済の二つを併せて、世界システムと呼ぶ。世界システムとは「一つの世界であるようなシステム」である。世界とはいっても、文字通りの地球規模の世界ではなく、それぞれの社会がひとつの世界をなしているような単位を言う。

 世界帝国は、人類史においてさまざまな地域で多数興亡したものである。文化的には多元的な要素を含みながら、強力な政治権力がそれらを統一し、租税の徴収と再配分によって分業体制の根幹を握るシステムである。ところが、15世紀の後半から17世紀の初頭にかけて、新たなシステムが形成された。1450年ごろから1640年ごろ、16世紀を中心としてその前後を合わせた約2百年間である。ウォーラーステインは「長期の16世紀」と呼ぶ。この時代に西欧人は、ヨーロッパと南北アメリカ大陸、アフリカ大陸を結びつける構造を作り出した。その過程でユーラシア大陸の西端に、文化的・政治的に統一されていないにもかかわらず、ひとつの分業体制が成立した。これは世界帝国とは異なるシステムであり、ウォーラーステインは世界経済と呼ぶ。そして、世界経済に立脚した史的システムを「近代世界システム」と称する。私は、この概念を文明学に摂取している。「近代世界システム」の形成は、ヨーロッパ文明の世界的拡大である。

 「近代世界システム」でシステムの統一性を保つ論理は、資本主義である。資本主義は、ヨーロッパ文明で発生・発達した。そしてヨーロッパ文明は、資本主義世界経済として発達しつつ、北米にも広がり、近代西洋文明になった。この過程で他の諸文明つまりアステカ文明、インカ文明、イスラーム文明、インド文明、シナ文明等を包摂していった。

 この間に「近代世界システム」は、中核―半周辺―周辺の三層に構造化された資本主義世界経済として形成された。この三層構造は、中核部が周辺部及び半周辺部から富を収奪し、中核部はより豊かに、周辺部はより貧しくなっていく構造として発展した。アジア・アフリカ・ラテンアメリカは最下層の周辺部となり、東ヨーロッパは半周辺部となった。

 私は、この近代世界システムの形成及び中核部による周辺部及び半周辺部からの収奪は、白人種によってのみ行われたものではなく、ユダヤ人が重要な役割を果たしてきたと考える。ユダヤ人は、中核部において差別・迫害を受けながらも、その一部が社会の上層部に食い込み、支配集団の一角をなして、中核部の発展に寄与した。その寄与は同時に反面においては、周辺部の従属化を実現・強化するものだった。

 次回に続く。