心の準備はできていた

 しゅんすけがスマホを持つようになって、クミコと3人でLINEのグループを作った。「これから帰るよ」とか「もうすぐ着くよ」とか他愛もない業務連絡に使用している。たまにしゅんすけにスタンプを送っても「既読スルー」だし、まあ味気ない。ところが、さあ会社を出ようかと思ったきのうの夜、珍しくしゅんすけからLINEが来た。「食器洗わなかったせいで、母が不機嫌。」

 しまった。朝、最後に家を出たのだが、バタバタしていて食器を洗うのを忘れた。帰宅したクミコが朝と同じ状態のシンクを見て、怒り狂う姿が目に浮かぶ。くわばらくわばら。

 恐る恐るクミコの携帯に電話をかけた。20回コールしても出ない。たぶん相当怒っている。諦めて会社の駐車場を出て家に向かった。

 車の中では、あれこれと言い訳を考えた。平謝りするか、何事もなかったようにするか。あるいは「そんなことで怒るなよ!」と開き直るか。クミコの出方を見てから決めようと思った。自宅の駐車場に車をバックで入れようとしてクミコの車にぶつけそうになった。「落ち着け」と自分に言い聞かせ、深呼吸して玄関のドアを開けた。

 家の中からは、クミコの笑い声が聞こえた。なんか楽しそうだ。とりあえず様子を探った。「食器洗わずに家を出ちゃって、ごめん。怒ってたでしょ?」クミコは答えた。「え?別に怒ってないよ。それより、アルビ0−0だよ。」

 しゅんすけと目が合って、心の中で「ありがとう」とつぶやく。心の準備ができているとずいぶんと違う。ちなみに電話に出なかったのは、単に気づかなかっただけだそうな。